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杭打ちデータ改ざんと住まいの安全性           

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「安全で憩いの場」と思っていた住まい空間が危険な場となりました。建物の基盤を支える杭のデータが改ざんされているのです。これでは、日本は他の国とは違って安全・安心の国などとも言っていられません。耐震強度改ざん問題の再現のようなこの事件をどう捉えれば良いのでしょうか。

各地の物件で発覚した改ざん

マンションの杭打ちデータ改ざん問題が毎日のようにマス・メデイアを賑わしています。問題の発端は、三井不動産レジデンシャルが販売した横浜のマンションに傾き箇所が見られたことでした。見方を変えれば、もし傾きが見つからなかったら表面化しなかった問題だったのかもしれません。最も安全・安心で憩いの場所であるはずの住まいに関わる不正だけに問題は大きなものがあります。

改ざん問題の2つの側面

この問題には、2つの側面があるように思います。その一つは、データの改ざんです。調べれば調べるほどあちこちからデータ改ざんの物件が出てきます。それも発端になった旭化成建材の杭打ち責任者の物件だけでなく、他の責任者や物件のものまで出てきました。工事関係者のマスメディアでの発言を聞いていると、データ改ざんの原因は、どこの工事にもありそうなものばかりです。そうだとすると旭化成建材だけでなく、どこでも同じようにやっているのではないかと疑いが湧いてきます。決められたデータの作成がいい加減なものであったとすれば、なんのためのデータなのか、全く意味が解りません。本来データは、実態が誰にでも平等に理解できるようにするためのものです。

杭は安定基盤に届いているのか?

データの改善も大きな問題ですが、より深刻な問題はもう一つです。建物を支える杭が本当に安定基盤に打ち込まれているのかということです。横浜のマンションが傾いたのは、安定した基盤に杭が届いていなかった、ということが原因のようです。だとすると、他の物件でも届いていない場合は、傾きが起きるということです。今起きていないとしても大きな地震が起きた時など傾いたり、倒れたりする可能性が高いということになります。阪神淡路大震災のときに傾いたり、倒れたりした建物を私たちはたくさん目にしました。問題の追及がデータ改ざんだけになって、第二の問題が薄れてしまうのでは、と少々心配です。

住まいが実現すべき本質

長野県・軽井沢に池波正太郎や三島由紀夫などの文人が好んだと言われる万平ホテルという歴史的なホテルがあります。ビートルズのジョン・レノン一家が良く利用したことでも知られています。このホテルの本館であるアルプス館を設計した久米権九郎という建築家は、もともと科学者になろうとドイツに留学していたそうです。ところが、留学中に関東大震災で家が倒壊し、大切な兄を亡くしてしまいました。そこで、地震にも強い家を作ろうと専門を急遽建築に変え、耐震性の高い新たな工法を産みだしたということです。アルプス館も木材で籠を編むような構造、“バスケット・コンストラクション工法”というもので作られているということです。久米権九郎の信念は、『建物は、貴重な人命を預かる容器』というものでした。関東大震災で大切な兄を亡くした久米権九郎にとって、不動の信念だったのでしょう。建築に携わる人たちには、もう一度原点に返ってもらいたいものです。

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