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「匠大塚」のオープンで始まった父娘の新たな戦い           

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㈱大塚家具の創業者と現社長との実権争いは、父親と娘という関係もあって、多くのメディアがこぞって取り上げていました。結局、娘の社長が勝って創業者が外に出ることになります。ところが、戦いはそれで収まったわけではなかったのです。創業者は、すでに大塚家具のある創業の地に新たな店舗「匠大塚」をオープンさせたのです。どんな戦いか探ってみましょう。

春日部駅西と東の戦い

大塚家具の創業者が、埼玉県春日部市に6月29日「匠大塚」をオープンさせて話題になっています。春日部市は、もともと大塚家具がスタートした地で、すでにIDC大塚家具春日部ショールームがあります。匠大塚は、東武野田線・春日部駅東口から徒歩7分。IDC大塚家具は春日部駅西口から徒歩3分の距離です。路線を巡る親子の確執が、駅を挟んでいよいよ店舗競争に持ち込まれることになります。

メディアは、この競争を親子の確執に重点を置き、路線の違いにはあまり目が向いていないように思われます。もともと親子の確執は、ビジネス路線、取分け店舗政策の違いにあったように思うのですが。政策の違いは店舗を見れば明らかです。その路線の主な違いを探ってみましょう。

「匠大塚」が訴える家具の素晴らしさ

まず第1に感じるのは、店舗名からの相違です。匠大塚は、“匠”を前面に打ち出しているだけに産地やブランド、デザイナーなどを強調しています。作り手に重点を置いて家具の素晴らしさを訴えているのです。売場には、見るだけでも価値のある素晴らしい一流家具が並べられています。それだけに値段も高額なものです。こんなベッドやソファーや椅子が収まるのはどんな家なのだろうと想像を逞しくしてくれます。

逆にIDC大塚の方は、大衆路線です。産地やブランドに拘らず、色・柄、デザイン、機能性など消費者のトレンドを重視しています。決して安ものを売っているわけではないのですが、価格を押さえてより多くのお客に購入しやすさを訴えています。換言すれば、使う側の便利性、趣味-嗜好性に重点が置かれているのです。匠大塚が作り手を大事に考えているのに対し、時代の変化に柔軟に対応していこうという政策と見えます。

家具の歴史と伝統ということから考えれば、職人の作る見事な家具が無くなっていくのは残念なことです。匠大塚の商売は、こうした意識に応えるものと言えます。とは言うものの機械も導入した大量生産で、より安価な家具が手に入るのも有り難いことです。匠大塚のビジネスは、伝統的な家具職人の技術を守っていくことになりますし、IDC大塚家具は、一般大衆が、無理なく購入可能な家具を提供することになります。どちらも捨てられません。

IDC大塚家具を凌ぐ圧倒的規模

第2に挙げられるのは、規模の相違です。IDC大塚家具が1万772㎡に対して新たにオープンした匠大塚は2万7000㎡と2倍を超える規模を持っています。もともと大塚家具は、駅前に大型の家具店を展開して成功してきたと言われていますが、想像を絶する規模です。日本最大級と言われる巨漢店舗には、一流家具が陳列され、さながら美術館のようです。規模の大きさは、品そろえの多さにもつながります。たくさんの種類の商品を見ることが出来るということで言えば、匠大塚の方がIDC大塚家具より上ということになります。ただし、お客の手の届く価格範囲で、どれだけ選択肢があるかとなると話は別です。

2つの店舗で相乗効果を生む?

第3に挙げられるのは商圏、すなわちお客が来店する範囲です。匠大塚のHPでは、東京・埼玉はもちろん、千葉・神奈川・茨城・群馬など関東6県からのアクセス方法が載せられています。これだけの規模となると、関東に留まらず日本全国に商圏が広がっても不思議ではないと思われます。一方のIDC大塚は、すでに数タイプの店舗も含めて17店舗を主要都市に展開しています。関東だけでも現在8店舗があります。明らかに地域ごとのお客に対応しているのです。従って春日部ショールームの商圏は、匠大塚よりも小さいものになっていると言えます。以上の3点だけでも路線の違いは明確です。

折角、停滞する家具需要にインパクトを与えることになったのですから、上手に棲み分けをすれば、今回の騒動も無駄にはならないのではないでしょうか。

 

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